難病「線維筋痛症」
60代、女性。
身体の各部位が激しく痛み、病院を受診。
痛みの部位が日々移動して特定できない難病「線維筋痛症」と診断されました。
病院では痛み止めを処方されましたが、早々に薬物治療は諦め、鍼灸治療に専念。
しかし、2年間通った鍼灸院が遠方のため、移動がきつくなり、先生に相談したところ、当研究室を紹介されたとのことでした。
初回、若い女性が「歩行介助」しながら、おみえになりました。
歩くだけでも痛むので、タクシーに当ビルの目の前で降ろしてもらい、とにかく「歩行は最小限」にしているとのことでした。
「入口からベッド」までの移動すら、ままならない状態です。
なんとかベッドに寝ていただき、触診。
後頚部の硬結が凄まじく、仰向けで顎が突き出した形になっていました。
両膝は完全伸展できず、やや屈曲したまま。
痛みの場所は日々変わるため、治療部位も特定が難しい。
なかなか手強そうです。
首の硬結を緩めようと手を伸ばした時でした。
介助してきた女性が急に立ち上がり、
「村上先生、首は触らないでください。前の先生から、首だけは触らないように言われています」
とおっしゃるので、
「ご心配になるのは十分わかります。ただ、この状態で、首を触らずに治療するのは難しいです。治すために触らせてください。どうしてもダメであれば、お帰りください。私には無理かもしれませんので」
と私は半ば諦めて言いました。
すると、今度は患者さんご本人が、こうおっしゃいました。
「この先生は本物だと感じるの。だから、お任せしましょう」
と介助の女性をなだめたのです。
ようやく治療開始。
全体的に身体が硬直気味のため、まずは全身をほぐし、鍼灸療法で下準備しました。
最後に頚椎矯正。
頚椎を定位置に戻す操作ですが、ときに首から「ぼきぼき音」がします。
こちらの患者さんの場合も、勢いよく音がしました。そのときです。
「ぎゃーーーっ!」
叫び声がしました。
なんと患者さんではなく、介助の女性が泣きそうな顔で叫んだのです。
さすがに私も驚きました。
患者さんご本人は、慌てた様子もなく、ベッドから起き上がり、
「大丈夫よ。なんだかスッキリした」
と介助の女性とは対照的に平気な顔です。
その後、さらに驚くことが起こりました。
患者さんは、自分の鞄を腕にかけ、一人で玄関に向かったのです。
私と介助の女性が、驚きのあまり唖然と立ち尽くしていると
「なにしてるの?帰りますよ」
治療した私が言うのも変ですが、「狐にでもつままれた」感じでした。
その後、2、3回来ていただき、痛みが残る箇所を治療し、経過は順調。
もし、また痛みが出てしまったら来ていただくようにしました。